桟敷席だったせいかケツが痛かった。
小劇場とはいえ、かなりせまい会場だった。
定員40名くらいだろうか。
正面だけでは席が足りないのか、それともエリザベス朝演劇を意識してか、舞台の横にも席が設けられていた。
『ヘンリー六世』3部作といいつつ、マーガレットを中心に愛人サフォークの死までを描くので、実質『ヘンリー六世 第二部』である。
マーガレットとサフォークの出会いから描いているが、ここのみが『ヘンリー六世 第一部』である。
後ろのほうで「ジャンヌ・ダルクを捕らえたぞー」とか「勝利ばんざーい」とか叫んでいて、いちおう背景説明にはなるのかな。
第三部は、うーん、どこにあったんだろ・・・。
第三部まで行くとヘンリーとその子どもたちを皆殺しにしなければいけないはずだから、ほとんど入ってないはず。
王子誕生ってところがそうか?
演出とは直接関係ないところから行くと、ヨーク公がいまいちだった。
台詞が頭に入ってないようで、何度もつっかえていた。
ヨーク公は独白が多くて「シメ」なので、もったいない。
外見は悪役っぽくてよかったんだけどなぁ。
(もっとも、2部でヨークは「暗躍してやる」と決意を固めるだけで、実際に暗躍するのは専ら3部--つまり今作ではあまり発揮されないのだが)
いちおう予習のために『
ヘンリー六世 第二部』を軽く読み返してみたが、表現の節々が違うので、小田島訳をそのまま使ったわけではないようだ。
たとえば、小田島訳では「簒奪者」の言い間違えが「散髪屋」になっているが、この公演だと「サンダル屋」だった。
強く印象に残ったのは、芝居だと本では現れない”行間”がよく分かって臨場感溢れるエキサイティングなものになる、ということである。
たとえば言い争いのシーンだと、本で読んでいると「○○ではないですか。」「○○と言わせてもらおう。」と穏やか・平坦だが、これを劇でやると激昂したりいやみっぽい笑いを浮かべたり、なかなか楽しい。
冒頭、サフォークとマーガレットが出会うシーンから。(第一部ですね)
サフォークがぶつぶつひとりごとを言うのは、見ているとかなり変。
話しかけても上の空なので、マーガレットも怪訝な表情。
その後に仕返しで独り言を言うところは半分くらいに縮められていたし、意趣返しということも言わなかったな。
サフォークを演じている役者は、なんというか、わりと普通の人。
すっごく美男子というわけではないけれど、どちらかというと善の側につきそうな優男タイプではある。
マーガレットは、気の強そうなお嬢さんといったところか。
(いや、ベテランそうだったから、お嬢さんと呼ぶには歳がいっているのかもしれないけれど…)
彼女の声は好きだ。
ベテランそうだったけど、演技は初々しい女性であった。
1部の慎ましさと、後半の「あいつ殺しちまえ」は同じ人とは思えない。
読んだときにも「これがあのマーガレットか」と意外に思ったものだけど、あれはネコをかぶっていたのだろうか?
ヘンリーは「ウドの大木」といわれるとおり、背が高くていい人オーラを発していた。
ちょっと草薙剛似。
衣裳が真っ白で、聖人ぽいイメージなんだろうな。
衣裳といえば、手作りっぽくて好感が持てた。
豪華すぎず、一生懸命作りましたってかんじ。
なんとなくカーテンの生地っぽいなと思った(笑)。なんでだろ。
マーガレットは最初はウェディングドレスで、あとは普段着のドレスを着ていた。
エリナー夫人とのやりとりは、なんか昼メロっぽい。
ここも演技が加わるとエキサイティング。
扇を落としてわざとエリナーをひっぱたくところは、思ったよりも激しくエリナーが怒っていた。
確かに、言っている内容が「お前の顔を引っかいてやる」だから、かなり過激なんだけど、あんなキンキン声でわめきたてるほどキレているとは(紙媒体では)気付かなかった。
エリナー夫人の役者は、けっこう年齢のいった女性なんだけど、ゆっくりした喋り方とあいまって、「少女のまま歳をとった上品なマダム」という風体であった。(もっとも、喋り方は他の役のときもゆっくりだったけど)
呪術に頼るのも、どこか子どもっぽい純真さというか、善悪の区別がつかず幸福を願うがためそういう物に頼ってしまった、というイメージを受けた。
呪術を実際に行う場面がないこともあって、邪悪さの類は感じられなかった。
あの場面見てみたかったんだけどなー。
親方を請願するシーンはあったけれど(マーガレットとサフォークがいちゃいちゃするシーンだしね)、なぜか決闘の場面が削られていた。
だから、ヨークが職を罷免される理由は分かるけれど、その後ヨークの嫌疑が晴れたかどうか分からずじまい。
決闘のシーンは、マーガレットが「今日でよかったわね。あの決闘を見れば気晴らしになるでしょ」と言うだけ。
訴えられた親方と弟子をタロイモ、子イモ呼ばわりするのが面白かった。
エリナーが街中引き回しの刑にされる場面では、奥でマーガレットがそれを見ているという演出。
てっきり満足そうな笑みを浮かべて眺めてやるのかと思いきや、心中複雑な様子。
いくら敵であり、マーガレットが未来の鬼ババアとはいえ(?)、自分と近い立場の女性が貶められるのは耐え難いものがあるんだろう。
グロスター夫妻が退場した後、憮然とした表情で、何かを振り切るように退場したのが印象的だった。
グロスターはこの芝居だけ見ると、清廉潔白な人物なのに陥れられた悲劇の人、といった風にも見えるが、たしか第一部では枢機卿と反目して武人を死なせたんじゃなかったっけ…。
史劇は全体を見ないと、色々見落とすことが多そうだ。
なお、グロスターの死体は出てこなかった。
ウォリックが死体の様子を語るだけ。
グロスターの死が伝えられて王が嘆く場面について。
まず、枢機卿が腰を抜かしっぱなしだったが、これは次の場面で危篤になることへの伏線か?
自分で仕掛けたんだからあんなにびびることはないのに。
で、肝腎なのは、嘆きっぱなしの王と、それに追いすがる(?)王妃とのすれ違い。
チラシには「王と王妃との性格のすれ違いを描く」と書いてあったけど、ここが最も顕著な場面であろう。
王はグロスターの死を(大げさに?)嘆き、王妃の言葉は耳に入らない。
必死に夫の愛を確かめようとむなしい努力をする王妃。
王の心の中は グロスター>>>王妃 ぐらい愛が違うような気がした。
グロスターの死の場面といえば、王がきっぱり命令を下すのってここだけじゃなかったっけ。
グロスターという庇護者を失って、王が独り立ちすることの表れか。
サフォークの死は王妃に伝令がやってくるだけ。
呪術の場面がないので、予言の話もない。
あの予言、「水によって (by water)死ぬ」だから溺死するのかと思いきや、ウォーターさんによって殺されるって、なんかダジャレのような…。
日本語で考えると「お前は林によって死ぬ」といわれて林さんに殺されるようなもんだ。
マクベスといい、第三部のヘンリー王の予言といい、どうしてかくも予言は成就するものなんだろう。
成就しなかったら予言じゃないのか。
サフォークの死の後に唐突に王子誕生が告げられて、そこで終わってしまう。
王子誕生って果たして必要だったんだろうか。
舞台中央に王妃がいるのに、王子誕生が奥で告げられるから、マーガレットが息子を産んだということがいまいち実感できない。
史劇はやっぱり登場人物が多くて難しいのか、序盤は特にお客さんたちがパンフを何度もめくる姿がよく見られた。
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